杉山治夫 先生
Haruo Sugiyama
大阪大学大学院 医学系研究科 寄附講座教授・大阪大学名誉教授・大阪大学医学博士・ベルギー アントワープ大学名誉博士
会長挨拶
がん免疫療法は、がんの標準治療である、手術、抗がん剤治療、放射線治療に次ぐ、第4の治療法として、免疫チェックポイント阻害剤の成功により確立されました。
がん免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤以外にも次々と開発されており、CAR-T細胞療法(キメラ遺伝子T細胞療法)は、悪性リンパ腫、急性リンパ性白血病や多発性骨髄腫の治療法としても確立されております。
また、樹状細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞を用いた免疫細胞を用いた治験が進んでおり、iPS細胞から分化誘導して産生されたこれらの免疫細胞を用いる治験も進められております。
さらに、腫瘍関連抗原(TAA:Tumor-Associated Antigen)を標的にしましたペプチドがんワクチンにおきましては幾多の臨床開発がなされており、その中でも、WT1がんワクチンの研究開発が世界の最先端であると自負しております。
WT1遺伝子(Wilms’ tumor gene 1)は、小児の腎がんであるWilms’ Tumorの原因遺伝子として単離され、種々の遺伝子の転写を制御する転写因子をコードし、がんの『抑制』遺伝子と定義されておりますが、私は一連の研究から、WT1はがん遺伝子であることを提唱し、1994年にWT1遺伝子が殆どの白血病で高発現する白血病の腫瘍マーカーであることを発見しました。
そして、私はWT1 mRNAを定量することにより、末梢血で10万個の正常細胞の中に1個の白血病細胞を検出できるWT1 mRNA定量検査法を開発しました。
このWT1 mRNA定量検査法は、大手製薬企業によって治験が行われ、2007年に急性骨髄性白血病に対し、2011年には骨髄異形成症候群に対し、そして2022年には急性リンパ性白血病に対して、日本で保険収載され、今は白血病や骨髄異形成症候群の治療を行うにあたり必須の検査となり、欧米でも採用が進められております。
本検査は2022年に中国で、骨髄異形成症候群に対しても保険収載されています。
並行して、WT1は白血病などの血液悪性疾患や殆どすべての種類の固形がんに高発現する汎腫瘍関連抗原であることも見出し、WT1ペプチドがんワクチンを開発しました。
2001年から、WT1ペプチドがんワクチンを、ヒトに世界で初めて投与する臨床研究(First in Humanと呼ばれる)を開始し、現在までに、大阪大学医学部附属病院を中心にして、906人の白血病及び各種固形がん患者さんに対しWT1ペプチドがんワクチンを投与しました。
また、世界で行われておりますWT1ペプチドがんワクチンの治験症例や、日本やヨーロッパを中心に世界に広がっておりますWT1樹状細胞療法を受けられましたがん患者さんを合わせますと、16000人以上のがん患者さんにWT1がんワクチンが投与されており、その有効性が多数の論文で報告されております。
副作用による死亡例はなく、極めて安全ながん免疫療法であると言え、2010年には米国立がん研究所が、75種類のがん抗原の有用性について、9項目にわたり様々な評価が行われ、WT1ががん抗原の第1位にランキングされました。
私は、研究者(アカデミア)と医療者(クリニック)との相互研鑽を通してWT1樹状細胞療法のさらなる発展を図ることを目的としまして、大学研究者やクリニックの専門家に呼びかけて、2019年に、「Neo-WT1樹状細胞療法研究会」を創設し、年に2回程度、「Neo-WT1樹状細胞療法研究会」が開催されております。
また、「Neo-WT1樹状細胞療法研究会」は、「国際WT1学会」(International Conference of WT1 on Huma Neoplasia) とも密に連携し、WT1樹状細胞療法の発展を図っております。
この「国際WT1学会」は、杉山治夫(大阪大学)とThiel教授(Free University,Berlin、現Charite, Campus Benjamin Franklin, Berlin)によって、2004年に創設された歴史のあるものです。
事務局長は、杉山治夫とkeilholz 教授(Charite, Campus Benjamin Franklin, Berlin )で、事務局は大阪大学にあります。また、「国際WT1学会」は、日本(杉山治夫が主宰)とヨーロッパで、1年半ごとに交互に開催されております。
がん患者さんの期待に応えるべく、WT1がんワクチン(WT1ペプチドワクチンとWT1樹状細胞療法)が新たな治療法として、大きく貢献できることを強く願っております。
杉山治夫
杉山治夫会長 ベルギー アントワープ大学名誉博士号業績紹介動画(英語字幕)
